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感覚過敏の子どもの子育て-相談歴20年の心理師が伝える敏感な子を支える親が知っておきたいこと

感覚過敏
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はじめに

子育てをしていると、「うちの子、音や光にものすごく反応する」「洋服のタグを気にして自分で外そうとする」「特定の刺激を求める/逆に過剰に嫌がる」など、五感・身体感覚に関する「ちょっと普通と違う反応」に気づくことがあるかもしれません。

こうした反応をまとめて「感覚過敏」と呼ぶことがあります。

相談の現場では、困りごとが「感覚過敏」に起因する問題であることは、結構多いものです。

ちなみに私さちも「触覚過敏」があります!片栗粉をどうしても素手で触ることができません!

この記事では、「感覚過敏」の子どもの子育てに焦点をあてて実践的な支援方法を整理しました。

 

感覚過敏とは何か?

「感覚過敏(sensory over-responsivity/過剰反応)」「感覚鈍麻(under-responsivity)」「感覚を求める(sensory seeking)」といった言葉は、子どもの感覚処理(sensory processing)に関する特性を説明するために使われています。

たとえば…

  • 音や光、触覚、匂い、味(五感)などに対して「他の子どもが気にしないレベル」で強く反応する。
  • 逆に、刺激をあまり感じず(転んでも全然痛がらない)、自ら強い刺激を求める(例:飛び跳ねる、走り回る、物を強く握る)。
  • 刺激をうまく処理できず、日常生活(着替え・給食・遊び・集団場面)で困難が生じる。

海外のレビューによると、感覚処理の困難がある子どもは、典型的な発達をしている子どもでも6人に1人程度という報告があります。

つまり「特別な子だけ」というわけではなく、感覚の受け取り方・反応のしかたに幅があるということが、最近では広く受け入れられつつあります。

また、感覚処理の違いがあるからといって必ず“発達障害”というわけではなく、あくまで子どもの“特性”として捉え、支援や配慮を考えることが大切になります。

 

感覚過敏の背景とメカニズム

感覚の捉え方・反応の仕方に差が出る背景には、次のような要因が関わっていると研究で示唆されています。

  • 神経発達的特性:感覚情報を受け取り、脳で統合し、応答するまでの神経経路や処理の仕方に個人差があります。例えば、最近の研究では、小学生の感覚過敏(sensory over-responsivity)を抱える子どもで、白質(white matter)の微細構造に特徴があるという知見も出ています。
  • 遺伝・家族の影響:感覚特性は家族内で共通しやすいという報告があります。たとえば、発達障害のある子の保護者自身にも高頻度で感覚処理上の特性があるというデータがあります。 
  • 環境的・発達的要因:早産、低出生体重、胎児期・周産期の影響、また幼少期の経験(どれだけ多様な刺激に触れたか)などが、感覚処理の発達に影響を及ぼす可能性があります。 
  • 感情・行動・ストレスとの関係:感覚過敏があると、その子どもや家族のストレスが高まりやすく、また感情や行動(不安、回避、睡眠・不規則な行動)との関連があることも報告されています。 

こうしたことから「感覚処理=正常vs異常」という二元論ではなく、「どのような特性があって、それをどう理解・支援するか」という観点が重要であるとされています。

 

子育て中に出やすい「感覚過敏サイン」

特に幼児期〜小学校低学年あたりの子育て期には、以下のような“気になる反応”が見られることがあります。

親として「うちの子、こういう反応をするな」と思ったら、次のような視点で観察してみると支援に繋がることがあります。

触覚/身体感覚に関するサイン

  • 洋服のタグを強く気にする/「これイヤ」と自分で脱ごうとする
  • おんぶ・抱っこを極端に嫌がる
  • 滑り台・ブランコ・砂場などの遊びで、「なんだか怖い」「気持ち悪い」という反応をする

聴覚(音)・視覚(光)に関するサイン

  • 室内の照明のチラツキ・蛍光灯・換気扇の音・雑踏の音を嫌がる、耳をふさぐ
  • テレビ・ゲーム・スマホの音が強すぎる、逆に反応が鈍い(名前を呼ばれても反応が遅い)
  • 明るい光・強い日差し・フラッシュライト・映画館などで「頭が痛くなる」・「気持ち悪くなる」という反応がある

味覚(食事)・嗅覚・感覚統合に関するサイン

  • 給食・外食・保育園のおやつで匂いや食感を強く嫌がる、選べられるものが極端に少ない
  • 香りの強いもの(カレー・揚げ物・香水など)で極端に反応する
  • 動き・バランス・体の位置(前庭感覚)で「フラフラする」「転びそうになる」反応がある

行動・情緒・家庭・集団生活でのサイン

  • 集団遊び・行事・遠足など「いつもと違う環境」で急にパニック、泣く、逃げることがある
  • 睡眠の入りにくさ・夜中に何度も起きる・朝起きられない(刺激過多/感覚過敏が原因のことも)
  • 急に動きが止まる・大声を出す・床に転がる・叩く
  • 遊びや学びに集中しにくく、「なぜ?」と思うことが頻繁に起こる(反応の遅さ・過剰さ)

こうしたサインが見られたとき、「叱る/無理に我慢させる」ではなく、「どういう刺激に・どのように反応しているか」を観察・記録することが、次の支援を考える第一歩になります。

 

親としてできる支援・環境づくり

親として、「子どもの特性を理解して、環境を調整する」「子ども自身が自分で感覚を整えられるよう支える」ことが、子育ての中で重要になります。

ここでは具体的にできることをご紹介します。

観察と記録をして「いつ・どこで・どの刺激で」困るかを整理する

観察では、「刺激・反応・前後状況」の3つを整理しておくと、パターンが見えてきます。

何の刺激に、どのような反応をしたのか、その前後には何が起こっていたのか、をメモに残せると分かりやすくなります。

このような記録は、保育園・幼稚園や学校、療育機関と情報を共有するときにもとても役立ちます。 

環境を調整する工夫

  • 音・視覚刺激を減らす
    • イヤーマフや耳栓を使用する。
    • 静かなスペースを作る。
    • 蛍光灯のチラツキを避けたり、間接照明を使う。
    • 予告をして「今日はここまでここで過ごすよ」と時間の見通しを持たせる。
  • 触覚・衣類・食の配慮
    • タグなしの服、肌触りのよい素材を選ぶ。
    • 給食やおやつ時に可能な範囲で「好きな固さ・匂い・温度」を選ばせる工夫をする。
    • 遊具・教材も、子ども本人が選べる素材(ざらざら・つるつる・柔らかい)を複数用意する。
  • 見通しを持たせる・段階的に慣れさせる
    • 活動の流れを事前に写真カードやイラストで示す。
    • 刺激が強そうな場面では、短時間から挑戦し、徐々に慣らしていく。
  • 感覚を満たす活動を取り入れる
    • 遊びや休憩時に「跳び箱」「クッションに飛び乗る」「砂遊び」「重めのブランケットをかける」など、安心して身体感覚を使える時間を用意する。
    • 反対に刺激を避けたい時には「静かな空間で深呼吸」「音楽を低音で流す」など、クールダウンのような仕組みを検討する。

「自分で整える」力を育む

最終的には、子ども自身が「自分がどんな刺激が苦手か/心地よいか」を知り、自分で整えられることが望ましいです。

親として、それを支援する方法は:

  • 言葉で「これはちょっと音が大きそうだね。どうする? イヤーマフ使う?静かな所にいく?」と声かけする。
  • 子どもが落ち着いている時に「どんな触り心地が安心する?」「どんな音が気になる?」と話す時間を作る。
  • 何か反応したら「やっぱりこの音(光・洋服)がきつかったね。次はこうしてみよう」と振り返る。
  • 少し刺激がある場面で「10分こうできたね。よく頑張ったね」と誉めて、成功体験を積ませる。

日常のルーティンに配慮を入れる

感覚過敏があると、体調・眠り・疲れ・ストレス状況によって反応が変わることがあります。

研究でも「感覚処理パターンと親のストレス・睡眠などの関連」が示されています。 

そのため次のような配慮も効果的です:

  • 毎日できるだけ同じ時間に寝る、起きる。
  • 遊び・学び・休憩のバランスを考えて、一日中刺激過多にならないようにする。
  • 疲れている日は刺激を少なめに、短時間活動中心にする。

 

保護者自身のケアと家族の支え方

子どもに感覚特性があると、保護者自身のストレス・疲労も大きくなりがちです。

最近の研究では、感覚過敏をもつ子どもを育てる親が感じる日常生活の負担への支援ニーズが明らかになってきています。 

親自身も“感覚疲労”を感じているかもしれない

実は、感覚過敏をもつ子どもの親自身にも感覚特性(敏感な感覚受容・反応)があるケースが多いという報告もあります。

親が過度な刺激環境(騒音・触れられ続ける・睡眠不足)にさらされると、自身も感覚的ストレスを感じやすくなります。 

そのため次のようなセルフケアを意識しましょう:

  • 自分の「これが苦手/疲れる」と感じる感覚刺激を知る(例:強い香り・雑踏・多数の人の声)
  • 1日10分でも「静かなひととき」「深呼吸」「短く歩きに出る」などを取り入れる
  • 支援グループ・オンラインコミュニティ・保護者会など、同じ悩みをもつ人たちとつながる
  • 必要なときは専門家(小児科・発達相談・心理士)や家族・友人に相談をして、ひとりで抱え込まない。

家族で「感覚配慮の文化」をつくる

保育園や幼稚園、学校、家庭をまたいだ支援を行うには家族全体が「刺激に配慮する文化」をもつことが大切です。例えば:

  • 家族で「この時間帯はお休みタイム」「テレビの音量はこのくらい」というルールを共有する。
  • 兄弟姉妹にも「お兄ちゃん・お姉ちゃんが静かにしていたら助かる」「〇〇(音・光)が苦手なんだよ」と簡単な言葉で知らせておく。
  • 家庭内で「感覚が強めだな」と思ったら、一緒に“静かな休憩コーナー”を設ける。

家族みんなが「刺激を減らす・調整する」ことを日常にしておくと、子どもにとっても安心感が生まれます。

 

専門的な支援を検討するタイミングと連携

多くの場合、日常生活での配慮や環境調整だけでも改善が見られますが、専門的な支援を検討した方がよい場合もあります。

  • 子どもの刺激に対する反応が年々強まり、日常生活や学び・遊び・集団参加に明らかに支障が出ている。
  • 反応のために登園・登校が難しい。
  • 友達との関係・家族関係に影響が出ている。
  • 子ども自身が「どうして自分だけ…」「いつも疲れる」と言い出している。
  • 睡眠・食事・発達面(ことば・行動)にも困りごとがある。

支援機関・専門職には以下のようなところがあります。

  • 小児科・発達外来:感覚処理の特性だけでなく、発達障害・他の併存状態の有無をチェックするため。 
  • 作業療法士(OT:Occupational Therapist):感覚遊び・感覚統合的な視点から支援プランを立てることができる。
  • 児童発達支援センター・放課後等デイサービス:日常の遊び・学び・生活動作において継続的支援が可能な場。
  • 教育機関・特別支援コーディネーター:保育園・幼稚園、学校と家庭をつなぐ調整役として活用する。

感覚過敏のある子どもを支援するには、“個別化された多職種アプローチ”が有効という報告があります。 

 

よくある誤解・議論と考えておきたいこと

感覚処理・過敏に関してはまだ医療・発達領域で論点も多く、親として知っておきたい誤解/注意点があります。

「感覚過敏=病気/診断されるべき状態」ではない

たとえば「感覚処理障害」という概念がありますが、これは正式な診断基準には含まれていません。

「特定の刺激に反応しやすい」「逆に反応が鈍い」といった特性があることは明らかですが、それを“ひとつの病名”として捉えるかどうかは、各国・専門職で議論があります。

親としては、「子どもの困りごとを見つけ、支援できる環境を整える」という実践面を重視しておくと安心です。

すべての“刺激に敏感”“変わった行動”=感覚過敏ではない

遊びに行きたくない、転びやすい、大きな音を嫌うなど、これらは感覚過敏のサインになり得ますが、「発達障害」「情緒不安」「体調不良」「環境ストレス(睡眠不足・空腹)」「学び・生活ルーチンの変化」など、他の要因でも起こります。

つまり“感覚だけが原因”と短絡せず、複数の視点で捉えることが大切です。 

療育・支援には“万能解”はない

「これをすれば治る」「この療育だけで完璧に改善する」というものはありません。

支援を選ぶ際には「この子にとって何が、どんな場面で困っているか」を明らかにし、「家庭、保育園・幼稚園、学校でどう支えられるか」「子ども自身が自分の感覚を整えられる力をどう育むか」を基盤にしておくことが重要です。

 

まとめ

子育ての中で「感覚過敏」を意識することは、「子どもを変えようとする」ことではなく、「子どもが安心して・自分らしく過ごせるよう、環境と関わり方を整える」ことにあります。

感覚特性をもつ子どもを育てることは、決して簡単なことではありません。

しかし、「この子はこういう感覚を持っている」「こういう刺激だと安心できる/逆に負担になる」という理解を深めることで、子どもの暮らしはぐっと快適になります。

そして親自身も「どうすればこの子/この家庭が少しでも楽になるか」を探せるようになります。

親子が少しでもしあわせに暮らせることを願っています

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