はじめに
イヤイヤ期――「魔の2歳児」とも呼ばれるこの時期は、子どもが自我を強く主張し始める発達段階です。
一般にイヤイヤ期は1歳半頃から始まり、2〜3歳頃に強まることが多いと言われています。
親にとっては大変ですが、これは子どもの成長の証であり、適切な対応で乗り越えられます(行動理解の基礎や支援法については厚生労働省などの資料が参考になります)。厚生労働省
この記事では、イヤイヤ期の子どもと親の具体的エピソードをご紹介します。

ひとりで悩まずに、みんなでこの時期を乗り越えられるといいですね。
イヤイヤ期
イヤイヤ期は「自分で決めたい」「自分の気持ちを伝えたい」という自我の芽生えが背景にあります。
言葉や感情の表現が未熟なため、「イヤ!」や癇癪で訴えることが多く、対応法としては共感・選択肢提示・環境調整・ルーティンの安定化などが有効とされています。
こちらの記事も参考にしてみてください→イヤイヤ期?癇癪?大変な時期を親子で乗り越えるポイント
相談場面での具体例
実際に相談の多い、親子間で起きやすい10場面を「状況 → 子どもの言動 → 親の対応(NGとOK) → その後の学び」の順で示します。すぐ使えるフレーズやポイントも入れています。
ケース①:スーパーで「これ買って!」と床に寝転ぶ(2歳)
状況:買い物中、お菓子コーナーで玩具付きお菓子を握ったまま動かない。
子どもの言動:「いや!欲しい!」と床に寝転ぶ。
親の対応(NG):無理やり抱えて叱る、周りの視線を過剰に気にして感情的になる。
親の対応(OK):落ち着いて距離を取りつつ短く共感(「欲しいんだね」)、選択肢を出す(「お家におやつあるよ。帰って食べる?それともこれ(親が買ってもよいお菓子など)をお土産にする?」)、場合によっては一旦その場を離れる。
学び:公共の場では親が冷静に対処することで本人の情緒が落ち着きやすい。
ケース②:朝の着替えを猛烈に拒否(1歳10ヶ月)
状況:保育園に行く時間、服を着せようとすると「イヤ!」と逃げたり固まる。
子どもの言動:床に座って動かない、泣き叫ぶ。
親の対応(NG):早口で怒鳴る、無理に押さえつける。
親の対応(OK):選択肢を与える(「赤い服と青い服どっちにする?」)、タイマーで「音が鳴ったら(あと5分など)で出発だよ」と見通しを伝える、着替えを歌にするなど遊び化する。
学び:自分で選べる感覚を与えるとモチベーションが上がりやすい。「選択肢提示」は、専門的にも推奨されている。
ケース③:玄関で靴を拒否して立ち止まる(2歳半)
状況:外出準備中に部屋に戻って靴を履かない。
子どもの言動:「いや!」「抱っこ!」と泣く。
親の対応(NG):叱って強引に履かせる、すぐに怒鳴る。
親の対応(OK):抱っこで落ち着かせた後、靴を「おもちゃ」として見立てる、片方履くごとに褒める、短時間の妥協(今日は裸足で行ける場所か判断したり、車の場合はとりあえず靴は親が持って行く)。
学び:まずは感情のクールダウンを優先すると安全に解決できることが多い。
ケース④:食事中に食器を投げる(1歳8ヶ月)
状況:食べたくない、または自分でやりたい時に食器を投げる。
子どもの言動:道具を放り投げる、泣く。
親の対応(NG):叱って物を取り上げるだけ、罰として食事を止める。
親の対応(OK):まず危険のない距離へ移し、短く共感(「自分で食べたかったんだね」)、代替案(手で食べる許可、簡単に掴めるものに替える)を出す。徐々に「持って食べようね」と一貫したルールを教える。
学び:自分でできる能力と情緒が噛み合っていないだけの場合がある。安全確保→共感→ルールを教えるが基本となる。
ケース⑤:他の子のおもちゃを奪う(3歳近く)
状況:児童館で他の子が遊んでいるおもちゃを欲しがり、手を出す。
子どもの言動:「ダメ!」と言いながら他の子を押しのけておもちゃを引っ張る。
親の対応(NG):すぐに叱るだけ、奪い返して終わりにする。
親の対応(OK):代弁して気持ちを言葉にする(「使いたかったんだね」)、順番のルールを簡単に説明(「今は使ってるよ。次に使おうね」)、代替のおもちゃを提示、興味をそらす。「貸して」という練習を場面で少しずつ増やす。
学び:社会性は繰り返し学ぶもの。親が場面ごとに言語化して支援することが効果的。
ケース⑥:お風呂に入らない(2歳)
状況:おもちゃで遊んでいる途中、お風呂の時間だよと声を掛けると「いや」と逃げる。
子どもの言動:浴室を怖がる、扉の前で泣く。
親の対応(NG):脅す、無理やり連れて行く。
親の対応(OK):お気に入りのおもちゃを一緒に入れる、最初はぬるま湯で短時間から慣らす、親が先に入って見せる。無理強いしない方針で徐々に慣らす。
学び:恐怖や不快が背景にあることもあるため、環境調整が有効。
ケース⑦:他人が抱っこすると嫌がる(2歳)
状況:親以外の大人に抱っこされると暴れる。
子どもの言動:「いや!ママ!」と泣く。
親の対応(NG):無理に押し付けて「挨拶しなさい」と言う。
親の対応(OK):本人のペースを尊重し、まずは見守る形にする。短い時間かわりに親が近くで安心させながら徐々に他者に慣れさせる。無理強いは逆効果。
学び:安心感は他者と距離を取る自由から生まれるもの。
ケース⑧:棚の商品を次々と引き出す(1歳半)
状況:家の引き出しを次々開けて中身を出す。
子どもの言動:満面の笑みで散らかす。
親の対応(NG):ただ叱って片付けさせるだけ。
親の対応(OK):安全な引き出しや遊びコーナーを用意して興味を満たす。引き出し自体はロックするが、代替の探索アイテムを与える。行動を見守りつつ境界を作る。
学び:好奇心を封じるのではなく、安全に満たす工夫が鍵。
ケース⑨:「○○しないで!」を繰り返す(2歳)
状況:言いたいことがうまく伝えられず、全てに「イヤ!」「ダメ!」と反応。
子どもの言動:些細なことに過剰反応し泣く。
親の対応(NG):怒鳴って言葉で押さえつける。
親の対応(OK):気持ちを代弁して言語化(「○○したくないんだね」)、簡単な語彙を教える(「怖い」「あとで」など)。遊びの中で言葉の選択肢を増やす。
学び:ことばにする支援は情緒の安定に直結する。親の代弁は専門家も推奨している。
ケース⑩:突然「ママいや!」と言って距離を取る
状況:親が疲れてイライラしていると子どもが反発的に振る舞う。
子どもの言動:「ママいや!」と突き放す。
親の対応(NG):責任を感じて自己嫌悪に陥る、泣く怒るなど感情的に反応する。
親の対応(OK):一度距離を取って親が深呼吸や短時間の休憩を取る(安全策をとった上で)。親のメンタルケアを優先し、周囲に助けを求める。親が落ち着くと子どもも安心する。
学び:親の心身のケアは子育ての質に直結する。支援を求めるのは「甘え」ではなく効果的な育児法。
共通する対応のコツ
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短く共感する:「そうだね、困ったね」など短い言葉で感情を受け止める。
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選択肢を出す:二択を出して選ばせると自立感が満たされやすい。
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見通しを伝える:タイマーや歌で次に何が起きるか分かるようにする。
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環境を整える:危険物は手の届かない所へ、代替の遊びを用意する。
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親のセルフケア:短い休憩や助けを求めること。親が落ち着くことが最大の効果がある。
まとめ
イヤイヤ期は親にとって消耗戦のように感じられますが、子どもが自分を表現する重要な時期です。
今回ご紹介した10ケースは典型的な場面と対応の一例に過ぎませんが、共通するのは「安全確保→感情の受容→具体的な代替(選択肢や環境調整)」という順序です。

完璧を求めず、親も自分の小さな頑張りを自分で褒めてあげましょう。
参考
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厚生労働省「子どもの行動の理解と援助」ガイド。厚生労働省

