はじめに
片栗粉が触れない!と気付いたのは、社会人1年目。
仕事の一貫で取り組んだ「うどん作り」でした。
それまで、片栗粉を触る機会があったのかなかったのかは記憶にないけれど…
片栗粉を触ると…ぞわっと内臓を掴みあげられる感覚が走るのです。
「何それ?!」と思われるかもしれませんが、本当にそんな感覚で。
触覚過敏という、感覚処理の特徴によるものなのです。
この記事では、私の“片栗粉”に触れない実体験をもとに、触覚過敏とは何か、なぜ片栗粉が苦手なのか、現実的な対処法をご紹介します。

私には触覚過敏と嗅覚過敏、聴覚過敏があるのです。
お子さんの感覚過敏についてはこちらの記事も参考にしてください→感覚過敏の子どもの子育て
1. 触覚過敏とは?
触覚過敏とは、触覚入力(皮膚に伝わる刺激)が他の人にとっては無害だったり、特にきにならない普通のことでも、本人にとって非常に強い不快感や恐怖をもたらす状態です。
これは感覚処理障害の一形態とされていて、自閉スペクトラム症などの発達障害と併存することもありますが、必ずしも診断を伴うものではありません。
作業療法や感覚統合理論では、過剰反応だけでなく、感覚回避や感覚探求など、個人差のある感覚プロファイルを重要視しています。
研究では、子どもの約16%が触覚や聴覚に関して不快を覚える感覚過敏を親に報告していて、それが社会情動的な問題や適応行動に関連することもあると示されています。

私は発達障害はなく、感覚過敏で困ることはあっても普通に生活できています!
2. 体験談:片栗粉との出会いと葛藤
きっかけ
私が「片栗粉」に強い拒否感を覚えたのは、社会人1年目のとき。
臨床心理士として子どもの発達支援の現場にいたので、その日は子どもたちと「うどん作り」をする日でした。
うどんの生地に片栗粉を振る作業で片栗粉を手にすると…身体の奥の内臓をぎゅっと掴みあげられるような、ぞわっとした感覚が走ったのです。
片栗粉のキュッとした感覚がとてつもなく不快…今でもその感覚は変わっていません。
当時周りにいた大人たちは、先輩作業療法士を含めた専門家集団。

触覚過敏あるんだね~

速攻言われました(笑) 以降、仕事では片栗粉を触らない作業を担当していました(笑)

回避手段を考える
その後、子どもが産まれると料理で片栗粉を使うことは増えます。
極力、片栗粉を手で触れる手順を避けるようになりました。
片栗粉を使う必要がある料理(煮物、とろみのついた汁物など)を作るときは、代用を考えるか、ビニール手袋か調理器具の使用が絶対です。
ビニール手袋を通してでも、不快な触覚は感じられるのですが、それでも料理をしないわけにはいきません。

私は、味覚過敏(偏食)はなく、食べることは大好きなので、普通に片栗粉を使った料理は美味しいのです。
3. 片栗粉が不快に感じられる理由
素材としての特徴
片栗粉(主にじゃがいもでん粉)は微細な粒子であり、水分と混ざると粘性が出ます。
乾いた状態でもさらさらしているだけでなく、指先に乗せると滑るようにまとわりつく感覚があります。
このテクスチャーが、触覚過敏のある人には「普通ではない刺激」として強く感じられることがあるのです。
感覚処理のメカニズム
感覚過敏の背景には、皮膚から脳への感覚信号の受け取り方や、その解釈の差があります。
過剰反応型では、脳が触覚入力を“不快”性や“危険”性としてラベル付けしやすくなっているようで、それが身体的な反応(冷や汗、ぞわぞわ、逃避)を引き起こすとのことです
また、神経科学的な研究では、感覚処理障害をもつ人の脳では興奮‐抑制のバランスが異なる可能性が指摘されています。
4. 日常生活の工夫:料理・片付け編

私は以下のような具体的な工夫を取り入れています。
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手袋の使用:ニトリルやポリエチレンなど薄手の使い捨て手袋を装着して、片栗粉に直接触れないようにする。
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袋を搾る方法:片栗粉の袋をはさみで角を切り、袋をそっと絞って鍋へ入れる。手を汚さず、飛び散りも抑えられる。
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清掃時の配慮:作業後、拡散した粉は濡れた布巾でなるべく素早く拭き、手で触れない手段を優先する。
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代替素材の活用:レシピによってはコーンスターチなど置き換えられるものも検討する。ただし食感やとろみの出方が変わるので注意が必要。

片栗粉のとろみ自体は好きなんですよね~
5. 感覚の慣らし方
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視覚的慣れ:まず袋を手に持つ。触るのではなく、目で見て、重量感や形を確認する。
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間接的な触れ方:スプーンやヘラを使い、袋をこすってみる。手が直接粉に触れないようにする。
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短時間接触:手袋を着けて、ごく短時間(10~20秒)だけ袋を握ったり軽く触ったりする。
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段階的延長:不快感の程度を見ながら、触っている時間を少しずつ延ばす。
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実用段階:料理の中で“片栗粉を投入する”という工程を行って、徐々に増やしていく。
この方法は、脱感作と呼ばれます。
作業療法や感覚統合のアプローチでもよく使われており、少しずつ負荷を上げることがポイントです。

私自身は直接手に触れなければOKなので、「うどん作り」などがなければ日常生活は問題なしです。
6. 専門家に相談する
感覚過敏の悩みを抱えている場合、作業療法士などの専門家に相談するのは非常に有効です。
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作業療法:感覚統合を理解した作業療法士は、個人の感覚プロファイル(過剰反応・回避・探求など)を評価し、適切な介入計画を立ててくれます。
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脱感作療法:家庭でできる段階的な訓練を、作業療法士が定期的にモニタリングしながら進めることが可能になります。
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継続支援:作業療法士は単なる訓練者ではなく、生活環境や役割分担、家族支援なども含めて総合的な支援を提供できます。
専門家との関係を築くことで、無理なく感覚を扱う力を育てることができるでしょう。
7. 家族としてできる支え方
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共感すること:「怖い」「嫌だ」という気持ちを否定せず、まず受け止めましょう。「無理しなくていい」という言葉が本人の安心につながります。
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役割分担の明確化:家族間で調理や片付けの役割を決め、触覚過敏のある工程を回避できるようにするとよいでしょう。
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小さな成功体験を讃える:触る時間が短くても、嫌な感覚と向き合おうとしたその努力を称えましょう。
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定期的な見直し:無理をして進めるのではなく、体調や気分、ストレスのレベルに応じて調整しましょう。

感覚過敏全般に言えることですが、体調やその日の状態によって、不快感は大きく異なります。調子がよいときは大丈夫なこともあるのです!でも、だからこそ「気持ちの問題」とは片づけられないことを理解してもらいたいです。
8. まとめ
「片栗粉が触れない」ということは、一見些細に思えるかもしれません。
しかし、触覚過敏という感覚処理の違いが日常生活に影響を及ぼすことがあります。
無理に“直す”ことを目指すのではなく、また、「気持ちの問題」として軽視するのではなく、家族で支え合いながら「できることを増やす」「不快感を減らす」「安心できる仕組みを作る」視点が何よりも大切です。
そうした視点によって、暮らしの質(QOL)を少しずつ改善することができます。
もし読んでくださったあなた自身、またはあなたの大切な人が似た悩みを抱えているなら、専門家に相談したり、小さな対策から始めてみてください。

